人生100年時代の幸せな老後のために

人生100年時代の幸せな老後のために

   我が国の女性は、2人に1人、男性は4人に1人が90歳以上となる人生90年時代を今まさに迎えており、さらに人類で最初の平均生命寿命の100歳越えは日本人であるとされています。今から90年経つと2人に1人が100歳を迎えるようになり、平均生命寿命は世界でダントツの107歳となることが推計されています。この100歳に達した方を「百寿者」と言いますが、近年年間に5000人ずつ増加し、直近では9万人に迫り、団塊の世代が100歳を迎え始める2047年に50万人を突破し、その2年後の2049年には65万人を超える急激な増加が予測されます。現在、このおめでたい百寿者の約90%が女性なのですが、必ずしも健康ではないという問題があります。このように生命長寿である女性も人生の晩年には健康を損なって過ごす現実があります。この女性における健康リスクを可能な限り克服して、不健康期間を短くし、晩年を如何に幸せに過ごすかということが百寿者の急増する我が国の回避ができない今後の重大な課題です。
 健康寿命とは寝たきりや要介護にならず、自立して健康に生活できる期間を言います。日常生活に支障がなくてサポートがいらない健康寿命と生命寿命の差がほとんどないと健全で理想的な老後ということになります。ところが、この不健康期間が我が国では男性で9年近く、女性では12年以上あり、これは女性の健康寿命が生命寿命ほど長くなく、不健康期間が3年以上も長いということなのです。今回は、何が原因でこのようなことが起こっているのか、不健康期間を短くするにはどうすればよいかについてお話をします。
 この一番の原因は高齢女性では骨折、転倒、関節疾患が男性の2倍弱多いことです。45歳位までは女性ホルモンで骨や筋肉の健康が守られていますが、閉経の少し前から骨や筋肉が減り始め、コレステロール、血圧、血糖も少しずつ上昇します。骨密度は閉経の少し前から、年間に2%低下し、48歳から60歳までの12年間で20%ほど減ります。そのため60歳を超えると3人に1人が骨粗鬆症になり、背骨を骨折します。70代では5人に1人が転倒により大腿骨を骨折し、その結果、20%が1年以内に亡くなり、80%が寝たきりにならないものの、日常生活動作のうち実施できないものがあり、要支援・要介護が必要な高齢による虚弱(フレイル)になってしまいます。生還者は20%にすぎません。この転倒骨折は夜間にトイレに向かう廊下で起こることが最も多いようです。
 何が健康をむしばむのか、何を阻んだら健康格差を是正できるのか究極の対象疾患は骨や筋肉、関節の運動器の疾患です。運動疾患は、“現代国民病”で人類社会の最大な課題です。自分の脚での立ち上がりや歩行に支障をきたし、トイレにも不自由して介護がはじまるのです。我が国は2050年には高齢化率が40%に達し、人口の10人に1人が要介護になることが予測されています。「転ばぬ先の杖」ということわざがありますが、手遅れにならないうちに足腰をしっかりと鍛えてください。そうすると幸せな老後が待っています。運動したのと類似の効果となる筋肉と骨の両方を強くして運動機能を向上させる“薬”の研究が今や始まっていますので、明るい未来に期待してください。それまでに「健康格差」をもたらす足腰の鍛錬を怠らないようにしたいものです。

執筆者

産婦人科 特任部長  太田 博明
専門医・指導医 日本産婦人科学会専門医/日本女性医学学会女性のヘルスケア専門医/日本骨粗鬆症学会認定医/日本抗加齢医学会専門医/日本東洋医学会漢方専門医
専門領域・得意分野 女性医療(骨粗鬆症/サルコペニア/ロコモティブシンドローム/フレイル/メタボリックシンドローム/抗加齢医学/終末糖化産物/婦人科腫瘍/更年期障害/閉経関連泌尿生殖器症候群など)

メディカル
インフォメーション 検索

診療科・部門で探す