【講演内容公開】第9回 開院記念市民公開講座のご報告

第9回 開院記念市民公開講座 メインテーマ:「心臓と血管のお話 -早期発見と最新治療-」

 
講演1 心臓の血管病の早期発見・早期治療
―あなたの知らない間に進行する血管病への対策―

 [講師]川崎医科大学総合医療センター 内科医長
   川崎医科大学 総合内科学1講師  奥津 匡暁 
 
  
厚生労働省人口動態統計によると心疾患は死因の第2位で15.2%を占めており、重点的な医療介入を必要とする疾患とされています。様々な心疾患の中でも生命にかかわることが少なくない心臓の血管病(冠動脈疾患)についてお話しします。

冠動脈疾患とはいわゆる狭心症、心筋梗塞のことです。冠動脈疾患は動脈硬化によって発生するので、それ自体では症状はなく気づかないうちに進行します。そのため症状が出た際にはすでに動脈硬化はかなり進行した状態となっています。従って早期に発見して早期に治療することが重要です。動脈硬化になりやすい要因(冠危険因子)としては高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、肥満などが挙げられます。もちろん、これらに対して治療、改善を行うことは最低限必要ですが、仮に症状がなくても、これらの要因を持っている方は定期的な動脈硬化検査をお勧めします。

簡便な動脈硬化検査としては頸動脈エコー、ABI検査が挙げられます。これらは直接冠動脈を見る検査ではありませんが、頸動脈や下肢の動脈に異常があれば心臓の血管にも異常がある可能性が高く、それらの検査で異常を指摘された場合には心臓CT検査も検討します。また、これらの検査で異常がなくてもある一定の年齢になれば一度は心臓CT検査をお勧めします。

心臓CT検査は外来で検査可能な比較的簡便でありかつ冠動脈を直接観察することができるために正確な冠動脈診断が可能です。ただし、心臓CTの撮影には64列以上の多列CT装置が必要であることと、読影にはかなりの熟練を要する点に注意が必要です。このCT検査で異常がなければ冠動脈には大きな問題がないと言えます。しかし、この検査で大きな異常が指摘されれば心臓カテーテル検査・カテーテル治療が必要となります。心臓CT検査が普及していない時代にはカテーテル検査をして冠動脈評価を行い、改めてカテーテル治療を行っていました。しかし、精度の高い心臓CT検査を行えば単なる検査としての心臓カテーテル検査はなくすことができ、本当に冠動脈疾患のある人だけにカテーテル治療を前提としてカテーテル検査を受けていただくことが可能です。

以前は「胸が痛い」「胸が苦しい」「息切れがひどい」などの自覚症状が出て初めて検査を行っていましたが、実際には高度の冠動脈病変を持っている患者さんでも無症状である方が少なくありません。また、症状があっても年齢的なものだろうと思い、病的なものだと気づいていない場合もあります。早期発見というだけでなく、見過ごされている病気を見つけるという意味でも、冠危険因子を複数持っている方が無症状のうちから検査を行うことが重要です。

 
 
 
奥津講師の講演様子
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講演2 心臓手術 -30年の歩み-
       
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 外科部長
         川崎医科大学 総合外科学特任教授  杭ノ瀨 昌彦


30年前の1987年に私は医師となり、そしてすぐに心臓外科への道を歩み始めました。当時、岡山県内で心臓手術を行っていたのは岡山大学病院、国立病院、川崎医大、倉敷中央病院、赤十字病院、そして私が勤めた榊原病院で、今とあまり変わっていません。患者さんの年齢は50歳代くらいまでで、60歳代は高齢者と呼ばれ手術危険度が大幅に増加すると恐れられていました。対象の病気は、心臓弁膜症と先天性心疾患がほとんどで、弁膜症はリウマチ性のため弁が固くなり、ひたすら人工弁置換術が行われました。朝手術室に入ると終わって出てくるのがその日の夜で、なかなか血が止まらないので大量の輸血が行われました。大量の麻薬が投与されており意識が戻るのに数日かかることもありました。手術前にCTも撮らず、麻酔も若手外科医の仕事で、集中治療室で担当患者さんの隣に簡易ベッドを置き、まさにつきっきりで管理をするのも若手の仕事でした。また、今のように簡単に血液透析など導入することもできず、尿が出なくなると大抵は亡くなられてしまいました。入院期間は術後1か月以上要しました。その頃から黄疸が出現し輸血後肝炎を発症する方がたくさんおられたため、発症すると入院は数か月に及びました。施設によって成績は様々だったと思いますが、患者さんは心臓手術を受けるというと、今生の別れをして手術に臨まれた感じでした。

この30年、何が変わってきたでしょうか。1番は患者さんと医療を提供する側との関係の変化です。患者さん側も知識や情報を得られやすく、わかりやすい説明を聞き理解し同意する権利が保障されるようになりました。これは心臓手術に限ったことではありません。進歩したのは、診断技術でしょう。詳細なCT画像や超音波画像が3-D化され、手術前に治療戦略が立てやすくなりました。術後も疑問点があれば容易にCTなどで診断を行い治療に結びつけることができます。輸血による感染症も激減しました。麻酔は心臓麻酔専門医が行い、術後管理は集中治療専門医が行うという分業も成績向上に寄与しています。さらにリハビリテーションも術前から介入し、早期離床を進め合併症予防に貢献し入院期間はどんどん短くなりました。

今は80歳代が普通に心臓手術を受けられる時代になりました。高齢者には複数の病気を持った重症な方が多く、より安全性を高めていく必要性が我々に求められます。心臓の専門家だけでは対応できない様々な疾患を持った患者さんに対して、いろいろな臓器、疾患の専門家が手術前、手術後に手助けをしてくれます。今後、総合医療の必要性はますます高まると思われます。

 
 



杭ノ瀨特任教授の講演様子


講演3 血管治療最前線、重症虚血肢からフットケアまで

[講師] 川崎医科大学総合医療センター 外科副部長
   川崎医科大学 総合外科学准教授  森田 一郎


食生活の欧米化や、高齢化社会の影響で、血管疾患は増加とともに重篤化しています。

毎年下肢血流障害で、1万人の下肢切断が施行されています。下肢血流障害の治療は、フォンテ-ン臨床分類で規定されており、Ⅰ期(冷感・しびれ)では薬物運動療法、Ⅱ期(間歇性跛行)では原則薬物と運動療法、上記治療が効果のない場合に血行再建、Ⅲ期(安静時疼痛)とⅣ期(潰瘍・壊疽)を合わせた重症虚血肢では原則血行再建を行います。

血行再建には、大きく分けてバイパス手術血管内治療(EVT)があり、この選択に関しても現在多種のガイドラインが提唱されており、病変部位別に、腸骨動脈領域(臍から股の付け根)はEVT、大腿・膝窩動脈領域(太もも)では病変の長さが20㎝以下はEVT、20cm以上の場合と膝下病変はバイパス手術が推奨されています。しかしEVTのデバイスの進歩は目覚ましく、今後バイパス手術はEVTに取って代わられる可能性が高いと思われます。そのデバイスの代表がバイアバーンで、ステントに人工血管がCOVERされた製品です。大腿・膝窩動脈病変の適応で、従来のステントより治療成績が20%向上しています。




しかし重症虚血肢においては、バイパス術の優位性はまだ揺るがない状況ですが、生命予後が不良な事が大きな問題です。その原因としては、冠動脈や脳動脈や腎動脈に明らかな病変を合併しており、多血管病の状態の患者さんが多いことです。こうような現状を一般市民の方に認知してもらうことが重要であります。

すなわち足の血流障害を早期に診断できれば、心臓・脳の病変も早期に発見できて、生命予後も改善します。

そこで足の血流障害を早期に見つける手段として、フットケアがあります。我々は、フットケアを拡大解釈し、健康増進、生活習慣病対策としても意義があると考え活動しています。

最新治療と予防対策としてのフットケアは車の両輪であり、2つの向上進化があって、はじめて大きな成果があがるものと考えております。みなさん、今日からフットケアを始めて、生涯歩行の人生を歩みませんか。
 

     
 
森田准教授の講演様子

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