【講演内容公開】第10回 開院記念市民公開講座のご報告

第10回 開院記念市民公開講座 メインテーマ:「胸部と腹部のがん -こんなサインには要注意-」

 
講演1 もっと知ろう肺がんの話 -その種類と症状-

 [講師]川崎医科大学総合医療センター 外科副部長
         川崎医科大学 総合外科学准教授  深澤 拓也
 
  
日本人のがん死亡の中で、現在一番多いのが肺がんで、男女あわせて7万人を超える方がこの病気で亡くなっています。肺がんは、それゆえもっとも私たちの身近に潜んでいるがんといえます。

肺がんが怖い病気と言われる原因は、浸潤と転移が早期から起こるところにあります。浸潤とは、がんの接する正常な細胞や組織で増殖を起こした状態です。さらに進行して、血管やリンパ節にも浸潤すると、その流れに乗って他の臓器へ移動します。これが転移です。転移は血管やリンパがある場所なら何処でも起こる危険があり、病気と反対側の肺、骨、脳や腹部臓器などにも起こります。このような離れた臓器への転移後は、治療をしてもがん細胞が残る可能性が高くなり、手術をして治すことができなくなっています。

肺がんになると、一般的には咳、痰、息苦しさなどが現れますが、実はその症状は多彩で、多くは大変辛いものです。肺がんの組織型は、大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けることができ、非小細胞肺がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分けることができます。この中で、肺がんの約6割を占めるのが腺がんで、次に扁平上皮がんが多くみられます。どの種類のがんになるかにより、その症状や治療法が異なってくることがあります。また、喫煙者に特に多いがん、女性に多いがん、症状の出にくいがんがあります。

肺がんは、肺の細胞の中にある遺伝子に傷がつくことで生じます。傷をつける原因にはさまざまなものがありますが、代表的なものが喫煙受動喫煙です。その他にも、アスベスト金属などが原因になることが知られています。発症のリスクを下げるためには、まずは禁煙ですが、実は吸わないからといって肺がんと無縁とは言い切れません。肺がんについて正しい知識を持つこと、そして早期発見が重要です。発症後に後悔しないよう、発症前の努力を怠らないようにしましょう。
 


 
深澤准教授の講演様子
※当院の外科はこちら



講演2 食道がんと胃がんの話 -ごはんが通らない?-
       
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 外科副部長
         川崎医科大学 総合外科学准教授  山辻 知樹


〇食道がんについて
食道はのどと胃をつなぐ細い管で、内側は扁平上皮という粘膜におおわれています。早期の食道がんは、しみる感じや不快感、違和感を訴える人はいるものの、多くは無症状です。食道がんが進行すると食事や水が通りにくくなり、さらに進行すると胸や背中の痛みが出たり、声がかすれたりすることもあります。食道がんは50~70歳代の男性に多く、その原因はまだはっきりわかっていませんが、飲酒および喫煙との関係があると考えられています。飲酒によりすぐ顔が赤くなる体質(フラッシャー)がアルコールの代謝に関係する遺伝子と関連しており、食道がんとの関係が研究されています。

内視鏡診断技術の進歩に伴い、早期で診断され、内視鏡切除が可能となる早期食道がんも増えてきました。かつて食道がんの外科手術は傷も大きく、手術時間も長く、体への影響が大きいと考えられてきましたが、近年は胸腔鏡手術など、低侵襲手術が進歩してきています。食道がんの診療を安全に進めるために、医師や看護師だけでなく、多くの医療専門職が協力するチーム医療が大切です。
 
 
〇胃がんについて
胃がんは日本人に多いがんで、塩分の多い食品の摂取や、野菜、果物の摂取不足などの食生活が関与しているとされてきましたが、最近研究が進んできたのが、ヘリコバクター・ピロリ菌との関係です。ピロリ菌は当初、胃十二指腸潰瘍を引き起こす原因として発見されましたが、近年胃がんの多くはピロリ菌を除菌することにより予防できるということがわかってきました。実際に今の若者にはピロリ菌の保菌者は少なく、近い将来胃がんは減ってくるのではないかと考えられています。
 
胃がんに対しても、低侵襲で身体にやさしい治療法として内視鏡手術や機能温存手術が進歩してきました。これまで治療が困難であった切除不能・再発胃がんについても、分子標的薬(がん細胞が持っている特定の分子をターゲットとして、その部分にだけ作用する薬)などの進歩により、治療選択の幅が広がってきました。

 



山辻准教授の講演様子
 


講演3 サインのない怖いがん

[講師] 川崎医科大学総合医療センター 外科副部長
         川崎医科大学 総合外科学准教授  浦上  淳


膵臓がんは、初期症状が非常に少ないことで知られています。膵臓は胃の背側、つまり体の奥深くに位置するため、がんが発生しても症状が現れにくく、本人が気づかない間に進行していることの多い臓器です。膵臓が「沈黙の臓器」と呼ばれる所以です。日本では年間約3万人が膵臓がんになっています。

特に、膵臓の中でも膵体部や膵尾部にできたがんは、かなり進行するまで自覚症状が現れにくいという特徴があります。その一方で膵頭部にできたがんは十二指腸や胆管に近いため、腹痛や黄疸といった症状が出やすくなります。
 
初期は無症状でも、進行するにつれて現れやすい症状は食欲の低下、胃腸の不快感、胃やみぞおちの違和感などです。ただ、これらは漫然とした症状なので、さほど深刻に受け止められず、医療機関の受診につながりにくいと思われます。受診しても胃腸関係の検査を勧められたり、胃腸薬を処方されたりすることも多いと思われます。

自覚症状がなくても、定期的に検査を受けることが、早期発見のための唯一の方法です。通常の血液検査やバリウム検査ではなく、腹部超音波検査や腹部CT検査を受けなければ膵臓の状態はわかりません。

膵臓がんは、さらに厄介なことに、早い時期に進行しやすいという性質も持っています。厚さが2センチほどの臓器のため、すぐに膵臓から周囲の組織へ広がってしまいます。また太い血管やリンパ管、神経などが取り巻いているため、その流れに乗ってがん細胞が早い時期から転移しやすいのです。

膵臓がんの治療は外科療法(手術)化学療法(抗がん剤)が中心です。一般的なのはまず切除手術を行って、術後に化学療法を行うというものです。切除手術は、膵頭部がんでは膵頭部、十二指腸、胆管、胆嚢を切除する膵頭十二指腸切除術を行います。膵体尾部がんでは膵体尾部と脾臓を切除します。現在では手術の安全性は高まっており、当院では安心して受けていただけると思います。
我々は合併症の発生を減らすことに努力しています。特に膵臓手術の場合は膵液瘻(膵液の漏れ)を起こさないことが重要です。膵頭十二指腸切除術では膵臓の断端と空腸を吻合(つなぎ合わせる)するのですが、この吻合がうまくいかないと膵液瘻を起こして、他の合併症を引き起こしたり、入院期間が長くなったりしてしまいます。
この吻合操作にいろいろな細かい工夫を加えることで膵液瘻の発生を最低限にしています。
 

 

     
 
浦上准教授の講演様子
 


講演4 救急とおなかの症状 -がんが心配ですか?-

[講師] 川崎医科大学総合医療センター 外科副部長
    川崎医科大学 総合外科学准教授  羽井佐 実

大腸がんは日本人の生活・食習慣の変化とともに増加し治療成績も向上してきました。診断がつくきっかけは様々ですが、
①症状がなく「がん検診」で見つかる人
②気になる症状があって「一般・専門外来」を受診し見つかる人
③強い症状があって「救急外来」を受診し見つかる人

の3つに分けて考えてみたいと思います。
 
がんは体の中に発生してから徐々に大きくなり、浸潤、転移を起こしつつ進行していきますが、早期のものであるほど体にやさしい方法で治療でき、治る可能性も高くなります。そして検診、一般外来、救急外来を比較すると検診で見つかるがんが最も早期であることが多く、症状が強くなるほど進行している可能性が高くなります。

大腸がんの症状は、血便、下痢と便秘の繰り返し、便が細いなどの便の症状、おなかが張る、腹痛、吐き気などの腹部の症状が代表的ですが、早期の段階では自覚症状はありません。血便は進行がんの中でも比較的早い時期から見られることもありますが、他はがんが大腸の内腔を塞いだ通過障害(腸閉塞)の症状であることが多く、気になる症状を放置していると強い症状となって救急外来を受診することになります。
 
しかし、救急は、あくまで緊急の症状に対応するための場であり、おなかのがんの専門医が診察するわけではありません。目標はすぐに対応(入院や緊急手術など)しなければならない病状かどうかを判断することで、がんを見つけることではありません。精密検査を行うことはなく、後日専門外来を受診することをお勧めすることになります。症状が一時的に良くなったからと放置すれば結局治療開始の機会を失うことになります。腹膜炎などの強い症状で入院、緊急手術になった場合も診断がついたからといって安心はできません。緊急時の治療は、がんを根治的に治療することよりも救命することを最優先にし、人工肛門を造ったりすることも多いからです。
 
がんが心配であれば、気になる症状が出た時点での受診やがん検診をお勧めします。それがより体にやさしい治療でがんを乗り切る一番の方法です。
 
 
 

     
 
羽井佐准教授の講演様子

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