新型コロナウイルス感染症の流行が始まった当初、子どもの患者数は非常に少なく、重症化する頻度も低いと考えられました。その理由は解明されていませんが、ウイルスが体内に侵入する際に必要なレセプター(ACE2 受容体)が子どもの呼吸器粘膜には少ないことや、通常のコロナウイルスに対する免疫が防御的に働く可能性などが考察されています。
ところが変異ウイルスの出現により、子どもの患者数は増えました。2021年春のアルファ株流行でその傾向が見られはじめ、夏に第5波として全国的に拡大したデルタ株では保育所や学校でのクラスター、家族内の感染も数多く報告されました。そして、その後のオミクロン株流行により、子どもの患者はさらに増えました。子どもに感染しやすくなったと懸念する声も聞かれますが、すべての年齢層の患者が増える中で子どもも多くかかるようになったと考える専門家が多いです。しかし患者数が増えれば、一定の頻度で重症者が発生するので油断はできません。
医薬品を用いる場合、次のような年齢区分と呼称で「子ども」を分類します。出生後4週間未満は「新生児」です。生後4週以上1歳未満は「乳児」、1歳以上7歳未満は「幼児」、7歳以上15歳未満は「小児」です。
抗ウイルス薬のレムデシビルは、使用に年齢制限はありません。ただし子どもに対する使用経験は少なく、ベネフィット/リスクを衡量して使用します。過去に様々な疾患で用いられてきた副腎皮質ステロイド薬デキサメタゾンは、病状に応じて子どもへの投与が可能です。抗体カクテル療法薬や、プロテアーゼ阻害薬は、12歳以上の子どもであれば投与できます。子どもに使える治療薬は大人と比べて限られており、感染しないように心がけることが大切です。
ワクチンについては、2023年3月末時点で、日本国内で接種対象となるのは生後6ヶ月以上の子どもです。
これまで子どもの患者や重症者が少なかったことや、新しく開発されたワクチンに対する副反応への懸念もあり、子どもに対するワクチン接種は様々な観点から議論が行われています。一方、感染症対策の基本は予防であり、人類は天然痘やポリオにもワクチンで立ち向かってきました。自らだけでは判断できない子どもにおけるワクチン接種の選択を、子どもたち自身や保護者にわかりやすい方法で適切にアドバイスできる環境をつくることが急務と考えています。