【講演内容公開】第11回 開院記念市民公開講座のご報告

第11回 開院記念市民公開講座 メインテーマ:「いつまでもよく見える人生のために―市民のための「眼の病気」講座―」

 
講演1 弱視ってなに? -早期発見の必要性-

 [講師]川崎医科大学総合医療センター 
         眼科視能訓練士  長田 祐佳
 
  
弱視とは、眼球そのものには病気がないのに眼鏡をかけても視力が上がらない病気のことをいい、適切な時期に治療を行うことにより視力は向上します。

新生児ではぼんやりと見えており、生後6ヶ月で約0.08、3歳を超える頃には成人と同じレベルの1.0に達します。視機能は生後適切な視刺激を受けて発達していくわけです。しかし屈折異常(遠視、近視、乱視、不同視)、斜視(視線のずれ)、形態覚遮断(先天白内障、極端にまぶたが下がっているなど)などがあると、鮮明な像を脳(視覚中枢)に伝えることができないため、視力の発達が遅れ弱視となります。すなわち脳への刺激も不十分となるため、脳の発達に影響が出ます。また、弱視があると、両眼視の発達にも影響を及ぼします。両眼視とは、2つの眼で見たものを脳で1つに合わせ、3Dのような立体的にものを見る能力のことをいいます。

視覚には感受性期間といって、学習するのに適切な時期があります。生後まもなくから始まり1歳6ヶ月頃がピークで、その後緩やかになり8歳頃までに発達はほぼ完成するといわれています。そのため3歳前後に弱視を発見し治療を始めれば、視力が向上する可能性はより高くなります。すなわち、感受性期間に治療を行うことが非常に重要なのです。

視力を向上させるためにまず初めに行う治療は、眼にあった眼鏡を常用することです。両眼の網膜にきちんと焦点を合わせた状態を作り、“見る”ことにより視力の発達を促します。それでも視力がでにくい場合は、良い方の眼をパッチで隠し、弱視の眼を使う訓練を行うこともあります。

治療期間は限られているため、3歳児健診で再検査になった場合やお子さまの目のことで少しでも気になることがあれば、放置せずにできるだけ早めの眼科受診をお勧めします。
 



 
長田眼科視能訓練士の講演様子
※当院の眼科はこちら



講演2 学童期の近視進行と予防
       
[講師]川崎医科大学総合医療センター 眼科部長
   川崎医科大学 眼科学2教授  長谷部 聡


近視になる学童の割合は、国内・国外を問わず増えています(マイオピア・ブーム)。強度近視に至れば、眼軸(角膜から網膜までの眼球の長さ)が伸びるため、網膜や脈絡膜に病的変化が起こり、成人になって黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など失明につながる病気にかかりやすくなることが知られています。眼鏡、コンタクトレンズ、レーシック、眼内レンズなど、近年では近視を矯正するためいくつも選択肢があります。しかし眼軸の過度の伸展に伴う合併症を予防する意味では、効果は全く期待できません。したがって、近視進行と眼軸の伸びが著しい学童期に、いかにその進行を食い止めるかという問題は、現在も眼科医にとって大きな研究テーマの一つです。

近視の進行には遺伝的要因と環境的要因の両者が関与していますが、前者の影響が強いことがはっきりしています。後者では、読書や書字の際に距離をとり正しい姿勢に努めること、天気の良い日は屋外活動に努めることが進行を遅らせると証明されていますが、実質的な予防効果は弱いと考えられています。

さらに予防的治療としては、海外での研究や科学的根拠の積み重ねにより、一歩ずつ確実に進歩を遂げています。私たちは「調節ラグ仮説」に基づき、ここ岡山市で、国内初のランダム化試験「累進屈折力眼鏡による近視予防トライアル」を実施しました(2002~2006年)。しかしその成績は、従来の単焦点眼鏡に比べて、平均15%の抑制効果が見られたに過ぎませんでした。

しかし、この研究をきっかけに、国内でも近視予防の研究が活発になりました。当院では、倫理委員会の承認を得て、近視予防トライアルPart 5「超低濃度アトロピン点眼液による近視予防トライアル」を間もなく開始します。効果を約束する確立された治療ではありませんが、近隣在住で、近視予防にご興味のある方は、ぜひご参加ください(対象:中等度以上の近視がある6~12歳の学童50名、募集期間:6か月、観察期間:3年)。

 



長谷部教授の講演様子
 


講演3 糖尿病網膜症とその治療

[講師] 川崎医科大学総合医療センター 眼科チーフレジデント
   川崎医科大学 眼科学2臨床助教  小橋 理栄 
 
糖尿病網膜症は失明原因の第2位で、毎年約3000人以上が糖尿病で失明しています。

糖尿病では、高い血糖が続くことで血管がいたんできます。眼の奥にある網膜というところは、たくさんの毛細血管が分布しているため、血管がいたむと、この網膜が障害されて糖尿病網膜症を生じます。網膜はカメラで言えばフィルムにあたるので、ここが悪くなれば見えなくなってきます。

糖尿病網膜症の初期の段階は、網膜に血管の瘤や出血がでてくる単純型糖尿病網膜症、さらに血糖が高い状態が続くと、毛細血管が詰まってくる2段階目の前増殖型糖尿病網膜症に進みます。2段階目では多くの場合、光凝固というレーザー治療が必要になってきますが、この時期に治療のタイミングを逃すと新しい血管が生えてくる重症な増殖型糖尿病網膜症に進行していきます。増殖型糖尿病網膜症では、硝子体手術を必要とすることが多くなりますが、手術がうまくいっても日常生活に必要な視力の回復が得られないこともありますし、治療の時期が遅れれば失明に至ることもあります。
 
前増殖型の早い時期にレーザー治療を行うことができれば、将来の失明予防のためにはかなり有効です。
しかし、この時期には自覚症状がないことが多いため、治療のタイミングを逃してしまいがちです。自覚症状があったときには、すでに重症な増殖型まで
進行してしまっていて、できるだけの治療はしても、視力を維持できない、あるいは失明に至ることもあります。また、血糖コントロールが不良であると糖尿病網膜症は進行しやすくなります。
 
糖尿病の患者さんは、血糖コントロールに努めるとともに、自覚症状がなくても手遅れにならないように定期的に眼科を受診することが大切です。
 
 
 

     
 
小橋助教の講演様子
 


講演4 白内障とその治療

[講師] 川崎医科大学総合医療センター 
    眼科シニアレジデント
  森澤  伸

ヒトの眼はよくカメラに例えられますが、水晶体はカメラのレンズにあたります。その奥に、カメラでいうとフィルムの役割をしている網膜という神経でできた薄い膜があり、見たものはそこに映ります。水晶体の働きは、光を網膜に届けることと、ピントを合わせることです。

無色透明だった水晶体が濁ってきたものが白内障です。症状をカメラに例えると、汚れたレンズで写真を撮るとかすんだ写真ができます。その見え方が白内障の症状です。

白内障は、加齢に伴って発生する場合が最も一般的で、早ければ40歳から発症し、80歳を超えるとほとんどの人が何等かの白内障の状態にあるといわれています。白内障は、放置さえしなければ基本的には失明する病気ではありません。しかし一度発症すると、薬では治りません。薬剤は、白内障が発生する前に予防をするか、発症した初期に抑制することが出来ますが、最終的には手術をする以外の方法はありません。
 
白内障手術は日本国内で一年間に140万件も行われているとてもポピュラーな手術です。総合病院や大学病院以外の眼科医院でも広く行われており、入院を必要としない日帰り白内障手術が普及していますので、患者さんの負担は低くなりつつあります。
 
白内障は、進行しても基本的に痛みがありません。白内障の初期の段階ではあまり自覚症状がない場合が多く、気が付きにくい病気です。進行した場合は、視界が暗くなったり、白っぽくかすんで見えたり、眩しく見える場合があります。特に、夜間に強い光を見た場合は眩しく見える場合があります。白内障の初期は視力が落ちることが多いですが、メガネを作りなおしたりコンタクトレンズを交換しても視力は回復しません。視力が低下したことで眼科を受診されて、そこで初めて白内障と診断される方も多くいらっしゃいます。

眼は通常二つありますので、片方の眼が少し見えにくくても、もう片方の眼に問題が無ければ、生活は出来てしまいます。そのため、日常生活に支障が出ないとなかなか眼科の受診に至りにくく、特に加齢性の白内障は徐々に進行するため、気が付いたときには手術以外の方法が選べなくなっている場合が多くあります。

ごく初期に発見することが出来れば、薬剤で進行を抑制したり、手術をするにしても先に延ばすことも可能です。心身ともになるべく負担が少なくてすむように、定期的な診察や早めの受診をお勧めします。

 
 

     
 
森澤レジデントの講演様子

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