心臓弁膜症について

更新日:2021/01/18

心臓弁膜症について

大人の心臓の病気には、心筋梗塞や狭心症、弁膜症などがあります。
 弁膜症については、俳優の梅沢富美雄さんがお話しているCMを見られた方も多いと思います。高齢社会となり、心臓弁膜症の患者さんが増えたために、人工弁などを作っているアメリカの企業がスポンサーとなって製作されたもので、弁膜症による症状に早く気づいていただくことが目的です。
 心臓の中には4つの弁があり、開いたり閉じたりして、血液が後戻りしないよう、一定の方向に流れるようになっています。多くの場合、僧帽弁と大動脈弁と呼ばれる弁が問題となりますが、僧帽弁は左心室(血液を送り出すところ)の入り口にあり、大動脈弁は出口にあります。
 加齢による変化で、弁が硬くなったり弱くなったりして弁膜症になります。弁は硬くなると狭くなり、血液がスムーズに流れなくなり、これを狭窄と呼んでいます。弁が弱くなると、きちんと閉じなくなり、血液が後戻りします。これを逆流と呼んでいます。大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流)などの病気です。
 弁膜症の症状は、階段や坂道で息苦しくなったり、息切れしたり、ドキドキしたりします。また、疲れやすくなります。僧帽弁の症状はゆっくりと現れ、大動脈弁の症状は急に現れることが特徴です。病状が進行すると、体が腫れたり、肺の周りに水がたまるようになります。この状態が心不全で、入院治療が必要になります。
 また、脈が不規則になる心房細動という不整脈を合併することがあります。心房細動では、心臓内に血の塊(血栓)が出来て、脳梗塞になる危険性があり、恐ろしい合併症です。心不全を繰り返すような患者さんでは、肝臓や腎臓などに影響し、肝機能や腎機能が悪くなることもあります。
 弁膜症は、初めのうちは薬による治療が行われます。症状が進むと薬の治療だけでは不十分となり、手術が必要となりますが、肝臓や腎臓に影響がでないうちに、手術を行うことが大切です。
 手術は、人工弁に取り換えてしまう人工弁置換術と、傷んだ弁を修復して弁の形を整える弁形成術があります。僧帽弁では弁形成が可能な場合はほとんどですが、大動脈弁では人工弁置換となることが多いです。また、心房細動を治す手術も可能で、脳梗塞を予防することができます。しかし、これらの手術は体への負担が大きいのは事実で、高齢の患者さんでは通常の心臓手術が難しい場合もあります。
 人工弁には機械弁と生体弁があります。機械弁は耐久性に優れていますが、血の塊(血栓)を作る可能性があるので、血栓を予防する抗凝固薬(ワーファリン)を生涯服用する必要があります。これに対し生体弁は血栓を作る危険性が少ないので、原則抗凝固薬の服用は必要ありません。しかし耐久性に問題があり、10年~15年で取り換える必要性が生じます。2020年のガイドラインの推奨は、大動脈弁置換では60歳未満は機械弁、65歳以上は生体弁で、僧帽弁置換では65歳未満は機械弁、70歳以上は生体弁となっています。概略若年者には機械弁選択、高齢者と妊娠可能な若い女性には生体弁選択となりますが、生体弁の改良により生体弁の使用が増えているのが現状です。
                           
 最近では、人工心肺装置を使用しないカテーテルによる大動脈弁手術が可能で、高齢の患者さんへの負担が少ない治療となっています。しかし、カテーテルによる方法が安全に行えないと判断されれば、従来の心臓手術を慎重に行うことになります。従来の大動脈弁手術についても、小さい傷で手術が可能になり、こちらも高齢の患者さんへの負担も軽くなってきました。                           
 一方、僧帽弁手術では胸の真ん中を切るのではなく、右の胸を小さく切開して手術をする方法(低侵襲心臓手術,写真)が広く行われるようになっており、高齢の患者さんには優しい方法と言えます。若い患者さんでは職場復帰が早いので、大変喜ばれています。
 最後になりますが、患者さんの中には年のせいだと思っていた症状(実際は弁膜症の症状)が、手術を受けられることで楽になったと実感されることがあります。息切れや疲れやすさが気になる方は、早めにご相談ください。

             

執筆者

外科 部長  𠮷田 英生
専門医・指導医 日本外科学会外科専門医・指導医/心臓血管外科専門医・修練指導者/日本胸部外科学会認定医・指導医(終身)/日本心臓血管外科学会国際会員・特別会員/日本循環器学会認定循環器専門医・中国四国地方会評議員/日本冠疾患学会特別正会員(FJCA)/関西胸部外科学会評議員/医学博士
専門領域・得意分野 弁膜症外科/冠動脈外科/大動脈外科

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