近年、検診で発見、早期診断されきちんと治療を受けられた乳がん患者さんの10年生存率は90%以上に達しています。
以前は乳がんが5年生存率と報告されていた疾患であることを考えると、ここ10年、検診システム、診断技術、手術、術後補助療法(再発率を低減するための治療)などが進歩し、システムが精度管理され、エビデンス(科学的根拠に基づく結果)によってそれらが実施されている証拠だと言えます。
また、生存率だけでなく、治療後の患者さんたちの生活スタイルも大きく向上し、多くの方が、罹病前と変わらない生活を取り戻し、仕事を再開しています。
なかには乳がん治療後に妊娠・出産し、育児を頑張っているお母さんたちも多くおられます。さらに、乳がん手術に関してはオンコプラスティックサージャリーの概念が導入され、治療後も引け目を感じることなく生活ができるよう、術後の整容性(乳房全体の外見)を重視した手術が行われるようになっています。特に早期発見された微小乳がんの患者さんたちでは、至近距離で乳房をみても、手術を受けたことはほとんどわかりません。現在はそういった手術が可能となっています。
がんが怖いのは命が奪われる危険があること、現在の生活が失われる可能性があること、将来の展望が見えなくなることだと思います。現在の乳がん診療は、がんの遺伝的種類、進行状態、患者さんの生活スタイルなどを考慮し、ベストな選択肢をある程度の根拠を持って提示することが可能です。
特に知っていただきたいのは、早期に小さく発見されるほど、治療の負担が少なく、治療後の生活の質が高くなることです。早期乳がんは症状が無いことがほとんど。つまり視触診では、十分な早期発見は難しいということです。しこりがないからと安心せずに、マンモグラフィ検診を受けることをお薦めします。また、家族に乳がんの方がおられるなど、乳がんに対する不安感が強い場合には、超音波専門医、乳腺専門医の診察を受けることも考慮されると良いでしょう。