1.「排除」認定後も見られる国内流行
世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局は2015年3月、日本が麻疹の「排除(Elimination)」状態にあることを認定しました。排除状態とは、その地域に定着した病原体が消滅していることを意味し、かつて日本に住み着いていた麻疹ウイルスは消えたということです。しかし、近隣のアジア諸国をはじめとして、海外には麻疹流行地域が数多く存在し、海外渡航者や日本への旅行者の患者がきっかけとなり、排除達成後も国内での感染拡大事例が頻発しています。2018年の3月から4月にかけて沖縄で始まった流行では、100人規模の患者が報告されました。
※沖縄県庁 「はしか発生状況」http://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/chiikihoken/kekkaku/mashin.html
2019年は大阪府で2月13日までに47例の患者が報告され、三重県では宗教団体が自施設で開催した研修会の参加者等から、49例の患者が確認されています。厚生労働省では、、他の都道府県に感染が拡大する可能性を考慮し、2月18日に各自治体と医療機関に対して早期発見や院内感染防止などに関する注意喚起の事務連絡を発出しました。
※厚生労働省 感染症エクスプレス@厚労省 号外(2019年02月21日)http://kansenshomerumaga.mhlw.go.jp/backnumber/
※厚生労働省 麻しん発生報告数の増加に伴う注意喚起について(2019年02月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/000480372.pdf
2.病気の重さと強い感染力
麻疹は、時に命にもかかわる重い病気です。ウイルスに感染して約10日後に、発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れます。2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現します。肺炎、中耳炎を合併しやすく、麻疹患者1,000人に1人の割合で脳炎を合併します。死亡する割合は、先進国であっても1,000人に1人とされています。
また、麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染と様々な経路でヒトからヒトに感染します。免疫を持っていない人の体内に麻疹ウイルスが侵入すると、ほぼ100%が発症します。
※厚生労働省 「麻しんについて」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/
3.ワクチンによる予防が大切です
麻疹に対しては「ワクチン」という有効な予防手段があります。麻疹ワクチン(現在わが国でおもに接種されているのは、麻疹風疹混合(MR)ワクチン)を接種すると、95%以上の人で免疫を獲得することができます。
ワクチンを2回接種することで、1回目の接種で免疫が付かなかった人にも免疫をつけることができます。また、接種後年数が経過して免疫が低下してきた人に対して2回目の接種をすることで免疫を増強させる効果があります。したがって、2回の接種を済ませておくことが、予防のために最も大切です。
日本では2006年度から、1歳児と小学校入学前1年間の幼児に対して、2回の定期接種制度が始まりました。定期接種の対象年齢(1期:1歳以上2歳未満、2期:小学校入学前1年間)を過ぎると任意接種の扱いになりますが、未接種の人や接種回数が不足している人には接種をお勧めします。
※日本小児科学会 「MRワクチンの接種推奨対象者について」(2018年5月)http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=266