【講演内容公開】第7回 開院記念市民公開講座のご報告

第7回 開院記念市民公開講座 メインテーマ:「いつまでも楽しく、元気に動けるために」

「健康と元気」のためのチーム医療
     
[講師]川崎医科大学総合医療センター 整形外科部長
   川崎医科大学 スポーツ・外傷整形外科学教授  阿部 信寛
 
 
メタボ(メタボリックシンドローム)や認知症になると元気が無くなって、介護が必要になるかもしれない、というのは皆さん想像しやすいことだと思います。メタボや認知症などの内科的な病気によって生じる介護必要度は、社会教育により認識される機会が多いので、皆さんが気にされて、病気にならないように注意されています。そして、健康になるために「ウォーキングしている」という人もいらっしゃると思います。これは動くことによって、代謝が良くなって健康になるというだけではありません。歩く、走る、立つ、座る、という動作において、運動障害や移動能力が低下すると介護度の重症化を引き起こします。

75歳以上の高齢者で介護が必要となった3人に1人は「関節疾患」や「骨折・転倒」「変形性脊椎症」などの運動器障害であるといわれています。つまり、呼吸器系、循環器系、そして消化器系などの内科疾患に問題が無くても、自ら動くことができないと介護が必要になってしまいます。

このような「運動器の衰えにより暮らしの中での自立度が低下し介護が必要になったり、寝たきりとなる危険性の高い状態」を「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」といいます。何故、「ロコモ」が問題なのでしょうか、どうすれば「ロコモ」を予防することができるのでしょうか。

具体的な運動器疾患である「変形性関節症」や「骨粗鬆症と変形性脊椎症」の発症を念頭に置き、私たちがお勧めしているスポーツ活動を通しての「ロコモ」予防と対策の重要性をお話ししました。


        

阿部教授の講演様子
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講演1 健康のための運動はどうすればいいの?
    -骨・関節を痛めたときのリハビリのコツ-
 
 [講師]川崎医科大学総合医療センター
   リハビリテーションセンター理学療法士  山下 裕之
 
 
骨、関節、軟骨、椎間板といった“運動器”が障害され、「立つ」「歩く」ことに困った状態を“ロコモティブシンドローム(ロコモ)”といいます。進行すると介護が必要になるリスクが高くなります。本日は、“ロコモ”を予防するための運動と、残念ながら骨、関節を痛めてしまった場合の運動の「コツ」についてお話しさせていただきます。

骨や筋肉の量のピークは20~30歳台と言われています。その後加齢に伴い低下していきます。しかし、適切な栄養摂取と適度な運動を継続して行うことができれば維持することができます。


一般的に推奨されている運動としては、ストレッチ、ラジオ体操、スクワット、ウォーキング、ジョギング、適度なスポーツ活動などです。いずれにしても継続することが大切なので“生活の中に取り込む”ことがコツです。近場の外出は歩く、階段を使う、歯磨きをしながら片脚立ちをするなどです。

それらによって、痛み、関節可動域の制限、柔軟性の低下、姿勢の変化、筋力の低下、バランス能力の低下をきたします。これらを放置していると症状は急速に進行してしまうことがあります。そうならないためには、痛みが十分に我慢できる程度の運動や、痛みが起こらない運動の工夫、調節をしながら継続することが重要です。姿勢を正す、膝を伸ばす、立位バランス練習など単純なことでも実践してみましょう。

通常、からだの中に痛みが出るとその部位は使わないようにするものです。そして、必要以上にかばってしまう傾向に陥ります。できることまでしなくなってしまいがちなのです。そのような過剰な代償を防ぐためにはいろいろな運動を通じて「これはできないけど、こんなことは出来るなぁ。」といった自分自身のからだを知ることが重要なのです。すなわち、自分自身のからだの状態を理解した“脳”をアップデートしておくことが大切です。



 
山下理学療法士の講演様子
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講演2 健康にはスポーツ・運動が一番
    -半月板・軟骨・靭帯が悪いと言われましたが、治りますか?-
 
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 整形外科医長
   川崎医科大学 スポーツ・外傷整形外科学講師  島本 一紀


立つ、座る、歩くなど、膝関節は足を動かすときに必ず使う重要な部位です。これらの動きがスムーズに痛みがなく行われるためには、関節を構成する関節軟骨、靭帯、半月板などの組織が正常に機能する必要があります。

膝関節を構成する骨は大腿骨と脛骨と膝蓋骨ですが、これらの骨を連結し安定させるために前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯の主に4つの靭帯があります。関節軟骨は骨が受ける衝撃を吸収する働きや、骨と骨との摩擦を防いで関節が滑らかに動くための働きがあり、半月板は関節面の適合を良くし、膝関節にかかる圧力を吸収分散する働きがあります。

膝スポーツ外傷で最も代表的なのが前十字靭帯損傷で、ジャンプ、ターンなど瞬間的に大きな力がかかる動作中に起きることが多い外傷です。症状としては痛み、動きの制限、膝が抜けるような感じ、膝の腫れを認めることが多く、その状態でスポーツ活動を続けると、半月板、関節軟骨が損傷を受け、早期に変形性関節症に至るため、専門医による適切な診断、治療が早期に行われるべき外傷です。前十字靭帯断裂が生じた場合、自然に治癒する確率は低く、スポーツ活動の継続を望む方や若い方は手術治療が必要です。手術は自分の膝周囲の腱を使って、靭帯の移植を行い、新たに前十字靭帯を作ります(靭帯再建術)。スポーツ復帰には半年以上かかります。

靭帯損傷と並んで多いのが、半月板損傷です。膝を捻った状態で、荷重がかかった際に受傷し、しばしば靭帯損傷と合併します。断裂を起こしやすい形態 (円板状半月)があると、軽微な外傷で受傷することもあり、加齢による変性のため損傷が生じる場合もあります。損傷すると膝のひっかかり感や痛みを伴います。断裂が進行し、ロッキングといわれる膝の屈伸ができない症状が出ることもあります。日常生活、スポーツ活動に支障をきたす場合は手術が必要であり、関節鏡視下切除術か縫合術が施行されますが、近年は半月板温存の重要性から、可能であれば縫合術をすることが多くなってきています。
 



島本講師の講演様子


講演3 腰痛・肩こりは整形外科医の得意分野です
 
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 整形外科副部長
   川崎医科大学 スポーツ・外傷整形外科学准教授  玉田 利徳 


腰痛は最も身近で、誰もが経験する痛みの一つです。急な腰痛で動けなくなったり、いつの間にか痛みが取れていたり、痛いと冷静でいられないのに治まったら忘れてしまいます。いつ起こるか分からずに繰り返していて、理由なく腰痛が再発していると思っていることでしょう。実は、自分が作ってしまった腰痛は、自分で治せるのです。

腰痛のうち原因が特定できるものは15%程度と言われています。しびれ感や下肢痛があれば、MRI検査が役に立ちます。高齢になれば脊椎圧迫骨折を起こしたり、腰自体が原因でない内臓からの腰痛もあるので、総合病院で相談してください。一方、残りの85%は原因が見つからず、この「非特異的」腰痛は日本では2800万人とも報道されました。これを慢性化させないためには、「自分で治そう」という心構えも大切です。

病気でない腰痛の多くは、ある動作を行ったり、ある姿勢をとったりしたときに発生します。最初こんな単純な「機械的な」、というような原因が、知らず知らずのうちに溜め込まれていて、繰り返す腰痛が慢性化すると悩みが深くなってしまうのです。そもそも関節だけでなく腰は引き伸ばされると痛くなる仕組みで、これを元に戻せば痛みは治まることから、腰痛治療の基本は動作や姿勢に関連していると言えます。そして、効果的な訓練方向が定まれば、その回復が早まります。また、再発を予防することにも有効で、腰痛の予兆が出たら直ちに実行することを習慣にします。つまり、自分で管理できれば、他のどんな治療法より効果的なのです。
 
このように、痛みや悩みを克服できる具体的な行動を続けながら、今日から毎日「腰みがき」に取り組んでみましょう。肩こりも同様で、姿勢を良くすると、健康的で活き活きとして見えてきます。


     
 
玉田准教授の講演様子


講演4 痛くて運動できないなんて言わせない
    -最近の人口関節は優れものです-
     
 
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 整形外科医長
   川崎医科大学 スポーツ・外傷整形外科学講師  東條 好憲 

人工股関節全置換術の対象となる中高年において、適度な身体活動は肥満・高血圧・高脂血症・糖尿病などの予防につながったり、活動性の改善から同世代の人と比較して心筋梗塞や狭心症といった病気の発生リスクが減少するとの報告もあります。その一方で、力学的な過負荷は人工関節のゆるみや摩耗につながると危惧されたり、人工股関節において、動作によっては脱臼の危険性といった不安要素もあります。
 
現在の人工股関節は展開方法の改善による脱臼率低減や、人工膝関節、股関節ともに素材の改良による耐摩耗性の向上、摩耗が抑えられることにより人工関節自体の緩みも抑えられることが分かってきています。また、ナビゲーションシステムなどの手術支援機械の併用による正確な人工関節の設置を通じて不安要素の改善が得られてきています。そういったことから、アメリカのガイドラインにおいてもいろいろなスポーツ活動が許可されるようになっています。

実際にアメリカでは、ジャック・ニクラウス氏が人工股関節手術を受けレクリエーションレベルのゴルフに復帰しており、人工膝関節においてはフレッド・ファンク氏がPGAツアーでの優勝を飾っている事例もあります。これらは現実離れした特殊なケースと考えられがちですが、アマチュアレベルでの報告でも人工関節後の方がスコア、飛距離もアップするようです。テニスにおいては、人工膝関節、股関節ともに前例復帰しているという報告もあります。
 
そういった事例の詳しいお話と、以前と比べての人工関節の改良点のお話と、お勧めするスポーツ、注意するべきスポーツについてお話ししました。
 
   
東條講師の講演様子

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