【講演内容公開】第8回 開院記念市民公開講座のご報告

第8回 開院記念市民公開講座 メインテーマ:「おいしく食べて楽しく話そう -味覚・嗅覚・音声・嚥下の障害:最新の医療-」

 
講演1 味がない/匂いがない -食事や漢方による治療ー

 [講師]川崎医科大学総合医療センター 副院長・耳鼻咽喉科部長
   川崎医科大学 耳鼻咽喉科学教授  秋定  健
 
 
ヒトの感覚には視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚があり、古くから五感といわれています。

『おいしく食べる』ためには五感の中で食物の味(味覚)と匂い(嗅覚)、そして歯ごたえ・舌ざわり(触覚)がとても重要です。のど越しの味は後でお話しする嚥下に関係します。また基本味には甘味、旨味、苦味、塩味、酸味があります。さらに匂いによって風味がでます。ここでは味覚障害、嗅覚障害の原因と治療(食事・漢方)について詳しくお話しします。

味がなくなる原因には薬剤性、鉄欠乏、亜鉛欠乏、ビタミンA ・B2・B6・B12の欠乏、口腔乾燥症、糖尿病などの全身疾患、心因性、耳鼻咽喉科手術(中耳炎・扁桃炎・喉頭疾患)がありますが、時に亜鉛欠乏が重要です。亜鉛は普通に食事をしていれば不足しませんが、インスタント食品やジャンクフードの過剰摂取、極端なダイエットで欠乏します。、亜鉛を多く含む食品は緑茶、抹茶、牛肉、うなぎ、チーズ、卵黄、レバー、牡蠣(カキ)、海草類(海苔、ワカメ、昆布)、納豆、そば、ゴマ、アーモンドなどです。また亜鉛を多く含有する胃薬のポラプレジンク(プロマック®)を処方します。

匂いがなくなる原因はアレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎(特に好酸球性副鼻腔炎)、鼻中隔彎曲(わんきょく)症、感冒(かぜ)、頭部外傷、薬剤性(抗腫瘍薬、降圧薬)、糖尿病・肝障害・腎不全などの全身疾患、心因性などです。最近はパーキンソン病やアルツハイマー型認知症の始まりの症状としても重要と考えられています。慢性副鼻腔炎や鼻中隔彎曲症は1週間入院の上、内視鏡下鼻・副鼻腔手術で匂いも改善します。副鼻腔炎手術後も含め感冒、頭部外傷などの神経性嗅覚障害ではステロイドホルモンの点鼻、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味帰脾湯(かみきひとう)などの漢方薬で根気よく治療します。当帰芍薬散には何らかの神経修復・再生作用があると考えられています。味や匂いを回復し、おいしく食べましょう。
 
 
 
秋定教授の講演様子
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講演2 食べるってどういうこと? -摂食・嚥下障害とは- 
       
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 
   リハビリテーションセンター言語聴覚士  安永 圭一郎


様々な生物が生きるために食事をしています。肺呼吸を行わない生物は呼吸も食事も同時に行うことができますが、我々は進化の過程でこのお手軽さを手放してしまいました。その代わりに、食べること、話すこと、歌うことなど様々な文化を堪能することができるわけなのですが・・・。要するに、食べることは人間にとってそもそも少し難しさを含んだ行為であり、病気や加齢など体の変化で危険を伴う行為に代わってしまうことがあります。

さて、≪食べにくさ≫は病院では摂食嚥下障害として扱われます。例えば食べ物を必要以上にたくさん口に詰め込む、熱いものを一気に食べようとするなど、栄養バランスとは関係なく、安全な食物選択や安全な食べ方ができないことを先行期の障害といいます。そして、口に食べ物を入れた後、口を閉じる、咀嚼する、食べ物を飲み込みやすい形に整えることが難しい場合を準備期の障害と言います。ここまでの問題であれば、環境調整や食形態の工夫で概ね対応することが可能です。

次に生じるのが、口の中の圧を高めて、えいやっと食べ物を喉、食道に送り込む運動で口腔期といいます。またゴックンといういわゆる嚥下そのものを咽頭期といいます。これが上手くいかないと「飲み込みにくい」「むせる」と訴えることになります。ゴックンと安全に飲み込むためには、のどの軟骨が十分に(指1本分)上にあがることと0.5秒以内で食物を食道に運ぶ速さが要求されます。そして最後は食道期の障害です。飲み込んだ後の逆流や嘔吐、胸焼けなどが挙げられますが、この問題は内科に相談することをお勧めします。
 
これらの運動は加齢、炎症や脳の疾病、低栄養など、様々な要因で容易に影響を受けます。そして先行期~食道期の問題はそれぞれの期に差はあれど、誤嚥性肺炎の危険を孕(はら)んでいます。

このような摂食嚥下機能について画像を交えながら確認しました。

嚥下・発声発語器官の機能を維持して、いつまでも楽しんで食べることができるように自身をメンテナンスしていきましょう。 
 
 



安永言語聴覚士の講演様子
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講演3 「鼻とのど」のがん -早期発見と最新の治療ー
 
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 耳鼻咽喉科医長
   川崎医科大学 耳鼻咽喉科学講師  宇野 雅子


鼻は呼吸や嗅覚など、のどは呼吸、摂食、嚥下や下気道の保護などの人間が生きるために必須の機能と、発声という生きるために欠かせない機能を担っています。これらの部位に発生するがんは健康診断の対象にはなっていません。さらに症状が出現したときには進行がんであることも少なくありません。早期発見のために、次のような症状が気になるときには耳鼻咽喉科を受診しましょう。


○ 鼻の症状
長期間にわたる血性の鼻汁や鼻づまり、とくに一側性の場合には鼻腔がんや副鼻腔がんが疑われます。鼻腔を前鼻鏡や内視鏡で観察することで診断できることもありますが、CTやMRIなど画像検査を行うことで診断がより確実になります。


○ のどの症状
のどが痛い、飲み込み
にくい、のどにつまった感じがする、声がかすれるなどの症状が続く時には経鼻内視鏡検査で観察することで、がんが発見されることがあります。飲酒歴や喫煙歴があるとリスクファクターとなります。また最近では上部消化管内視鏡検査で、のどのがんが偶然見つかることも多くなっています。この場合はほとんどが早期がんで発見されるので、適切な治療を行うことで予後は良好です。


○ 頸部の症状
鼻、のどのがんが関与する頸部の症状として頸部腫瘤があります。両者のがんからのリンパ節転移であることもあります。そのため鼻とのどに原発巣が存在することがあります。



鼻やのどなど、首から上のがんを頭頸部がんと総称します。先にお話ししたように、これらの部位は生命維持や生活の質を左右する重要な機能を有しています。最新の治療は治療効果の向上だけでなく、これらの機能を損なわないこと、また体に優しい手術を目指しています。これまでは頸部を切開して行っていたのどの手術ですが、内視鏡をはじめとする機器の進歩により、口からがんを切除することもできるようになりました。

放射線治療も技術の進歩により、病変へ正確に放射線照射を行いながら、近くにある正常臓器の放射線を低減し副作用を回避する強度変調放射線治療が開発されました。

われわれ耳鼻咽喉科は、これらの技術を取り入れ、良質で患者さんにやさしい診療を心がけるよう努めています。
 

     
 
宇野講師の講演様子


講演4 声が出ない/飲み込めない
    -リハビリテーションや手術による治療-
  
 
[講師] 川崎医科大学総合医療センター 副院長・耳鼻咽喉科部長
   川崎医科大学 耳鼻咽喉科学教授  秋定  健
 
『おいしく食べて楽しく話す』ためには発声、嚥下(飲み込み)の機能が大変重要です。
ここでは音声障害、嚥下障害の原因・治療(リハビリテーション・手術)について詳しくお話しします。

声が出なくなる(声がれ)原因には、発声過多による声帯ポリープ・声帯結節、腫瘍(乳頭腫・喉頭がん、下咽頭がん)、声帯の動きが悪くなる声帯麻痺、加齢に伴う声帯萎縮、筋緊張性発声障害、痙攣性発声障害、声帯に異常のない機能性発声障害(心因性を含む)などがあります。腫瘍以外の疾患では声のリハビリテーションである『音声治療』により改善し、悪化を防ぐことができます。音声治療は言語聴覚士が担当し、リラクゼーション、あくび・ため息法、プッシング法などを行います。手術は声帯ポリープ・声帯結節、声帯麻痺、加齢に伴う声帯萎縮、痙攣性発声障害などが適応となります。

当院では声帯麻痺の方に積極的にリン酸カルシウム(バイオペックス®)を注入し、良好な音声の回復がみられています。

飲み込みが悪くなる原因には口腔乾燥症、脳血管障害(梗塞、出血)、頭頸部がんの治療前後(手術、放射線)、パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患、心因性などがあり、さらに声帯麻痺や嚥下反射低下にともなう誤嚥(気管に唾液や食物が入る)によって肺炎を招きます。
嚥下障害の治療においては耳鼻咽喉科医、リハビリテーション科医、歯科医、言語聴覚士、管理栄養士、理学療法士などによるチームアプローチが行われています。様々な嚥下リハビリテーションを行い、患者さんのニーズにマッチした飲み込みの程度まで改善する方が多いのですが、改善しない患者さんには、ご相談の上、嚥下機能改善手術を行います。声帯麻痺に対する手術、喉頭挙上術、輪状咽頭筋切断術などがあります。
また誤嚥性肺炎を繰り返す方には誤嚥防止手術(気道食道分離術、声門閉鎖術、喉頭全摘出術など)を行います。
いずれも当院で可能です、どうぞお問い合わせください。


 

秋定教授
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