五感は、①触覚、②聴覚、③視覚、④嗅覚、⑤味覚の順で発達し、衰えていくのはこの逆です。
人が生まれたら真っ先に駆けつけ、人がその生を終える間際まで付き合うのが触覚です。
嗅覚は50歳~70歳付近を境に低下し、男性は女性より嗅覚機能が劣るとされています。嗅覚は食べ物に風味を与え、食の楽しみをもたらす大切な機能ですし、嗅覚障害は特に高齢者にとっては生きる活力の低下にもつながりかねません。嗅覚障害に使用されるステロイド薬は薬物の性質や副作用の点でアンチエイジングという意味合いの使用には適さないと考えられますが、高齢者が食の楽しみを取り戻せるのなら、副作用に注意しつつ使用することもあってよいと思われます。漢方薬の当帰芍薬散は中枢性嗅覚障害ならびにアルツハイマー病に対して有効です。
味覚機能は、60~70歳以上の高齢者では明らかな生理的な味覚低下がありますが、どの基本味の低下が大きいかは報告により差があります。義歯不適合は自覚的な味覚障害を招来しますし、唾液減少も口腔内乾燥から唾液中に溶ける味刺激物質が味細胞に到達しにくくなります。味覚障害の原因となる亜鉛欠乏症は日本人の約20%に現れ、潜在的欠乏約10%を含めると約30%に上ります。これらはセレン、銅、クロム、リチウムフッ素、鉄などの微量元素の欠乏でも似た症状が出ます。高齢者でも“美味しく食べる”には副食を多く、亜鉛を含む食材を摂取し、口腔内の清掃と義歯の管理が重要です。