MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検による前立腺癌の診断
1.従来の前立腺針生検法の問題点
前立腺がんの診断は、前立腺特異抗原(PSA)の測定、触診を行い、がんの疑いがある場合は、MRI、そして前立腺針生検(組織採取)の段階を経ておこなわれます。従来、前立腺針生検は、直腸を経由した超音波ガイド下に、前立腺を均等に区分し、その区分ごとに組織採取を行う系統的生検が主流でした。MRIで疑わしい病変を指摘されても、超音波では、その病変が分からないことが多く、超音波ガイド下では標的を定めた生検が不可能であることから、やむなく系統的生検を行ってきました。系統的生検の問題は、疑わしい部位を採取できたかどうかわからず、前立腺がんと診断されなかった場合、本当にがんが無かったのか、生検でうまく採取できなかったのか、はっきりしませんでした。そのため、複数回の生検が必要になったり、生検の本数を増やした飽和生検が行われてきました。
2.MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検

MRIの性能の進歩とともに、前立腺癌の診断におけるMRIの有用性が高まってきました。そこで登場したのが、MRI画像とリアルタイム超音波画像を癒合させて、正確に標的を決める「MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検」です。MRIで前立腺癌が疑わしい部位を、リアルタイムに超音波画像に表示させ、疑わしい部位を正確に組織採取する方法です。当院では、KOELIS TrinityRを導入しています(画像1)。
MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検により、生検での診断能が向上します。
3.前立腺癌の診断における具体的な手順
1.PSA検査・触診(肛門から指を入れて、前立腺表面を触る)
2.1で異常がある場合、MRI(可能であれば造影剤を使用)
3.担当医が前立腺針生検の必要があるかどうか判断。MRIの所見や年齢、PSA値の程度や合併症、内服薬の種類(抗血小板薬など)などを考慮して適応を決めます。生検の適応があると判断した場合、MRIで悪性の疑いがある場合は、MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検、MRIでは明らかな異常はないが、触診やPSA値から生検が必要と判断した場合は、系統的生検を行います(MRIで異常がない場合は、標的が不明で、ガイド下は不可能)。
4.MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検の手順
1.事前にMRI画像をTrinityRに取り込み、生検の標的をトレースする(画像2)
2.腰椎麻酔(下半身麻酔)
3.砕石位(お産の姿勢)になり、肛門周囲を消毒
4.超音波機器を肛門から挿入し、前立腺の超音波画像を取得
5.MRI画像と3D超音波画像を癒合させ、MRIでの標的部位を超音波画像に表示
6.表示された部位をピンポイントに生検(画像3)
7.系統的生検を加える(画像4)
8.出血を確認し終了
当院では、1泊2日の入院で行っています。
MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検では、生検を行った部位が3D画像で保存されるため、悪性の部位が3次元で明瞭となり、その後の手術の際に非常に参考になります。また、一回目の生検で悪性が証明されなかった場合、2回目の生検の時に、1回目の生検部位の画像を癒合することができ、生検部位が重複することなく、1回目と違った部位を生検することが可能となります。
現在の前立腺がんに対する根治的治療は、前立腺の全摘出術や放射線を前立腺全体に照射する放射線療法が主体ですが、将来的には、MRI-超音波癒合画像ガイド下前立腺生検で悪性が証明された部位のみ治療する、局所治療が行われるようになると思います。

<画像2>
MRI画像で疑わしい部位のトレース
(オレンジ色)

<画像3>
MRI画像で疑わしい部位を3D超音波上に表示し生検
(赤い丸は疑わしい部位・緑の矢印は実際の生検部位)

<画像4>
癒合生検と系統生検
(赤い矢印は標的生検・緑の矢印は系統生検)
診療科
専門外来
部門
(中央協力部門・診療支援部門)